1970年初版刊行。文藝春秋社。
小さな序章/死の偶然/死の純粋/死の混乱/死の襲来/ 死の和解/小さな終曲からなる。文学界連載。
第一章は妻の友人の死、第二章は友人の死、第三章は妻の死、 第四章は自分の死(への誘惑)、第五章は再び友人の死。
何となく登場人物が実在人物に準えられているような感じもみとめられるが、実際はどこまで忠実かはわからない。
第二章の友人はおそらく劇作家の加藤道夫だろうし、常識家・ 第五章の友人は原田義人だろう。 医者というのは加藤周一と思われる。 芸術者は福永武彦と思われるが少し情報が少ない。 企画屋はちょっとわからない。
老年に差し掛かり、自分の老いも自覚しつつ、 妻の死やその後の自身の精神的危機について事後十数年経過してよ うやく客観的に見返す何かのきっかけを得たのであろうか。 第四章のカーニヴァル的狂騒はのちの「夏」に、 散歩療法については「雲の行き来」 につながっていくようにもとれ、興味深い。
文体が精神病院入院前後で変わってしまったとのことだが、「 自鳴鐘」などともつきあわせて読み返したいところである。また、 原田義人の死については福永武彦の「告別」や加藤周一の「 羊の歌」も併せて読みたい。
装丁は駒井哲郎。いかにもな感じである。 死の不気味さを暗示させるかのようなおどろおどろしい前衛的な絵 画である。