ようやく94年に出ていた新潮文庫の復刊シリーズをすべて手に入れることに成功した。
苦節、何年?というほどまででもないが、しかし当初想定していたよりかなり集めるのに手こずった。100冊あれば、はじめのうちは見つけやすいものが目につくが、段々集まってくるにつれてラインナップを見返してみると、見かけないなこれはという壁にぶち当たった。これまでに各所ブックオフはさることながら、神保町に訪れるたびに澤口書店、愛書館中川書房、日本特価書籍、@ワンダーの文庫コーナーは必ず寄るようにして新潮文庫の復刊の棚だけ覗き、各種古書展でも文庫コーナーは漁り(段々年を取ってくると、背表紙の列を眺めるのもおつらくなってくるのである。そのためここ最近は文庫本をくまなく探すというのは敬遠していたのだが、新潮文庫の復刊を探し始めるのを機に文庫漁りもまた再開したのであった。特に所沢彩の国古本まつりと池袋三省堂古本まつり。後者が今はなくなってしまったのは残念だ)、時にはブックオフオンラインやヤフオクといったネットも駆使して集め回った。今思えば異様な執念である。
前回2022年7月に残り一冊と言ってからしばらく間が空いてしまったが、ようやく昨日最後の残り一冊フォークナー「野生の棕櫚」を見つけることができた。しかし、値段が値段であった・・・。
今回のこの蒐集に際して、自分の中で定価より高値では買わないということを課していて、ある程度順調にきていたのであるが、どうしても見つからないものについてはやむを得ないと思っていた。「野生の棕櫚」については、どうも見つからないということと、これまで見かけた際も安い値段で出ていたためしがないので、安価で買うのはもう無理だろうと思ってあきらめていた。それが、つい先日、澤口書店を訪れた際に、海外文庫棚に刺さっていたのをすぐさま発見し、何という奇跡だ、と、この僥倖に感謝した上で、震える手で裏表紙を開けて値段を見てみると
7000円
絶句した。3000円程度ならまあやむを得ないと思っていたところで、思いっきり吹っ掛けてくる値段じゃないか。予想の斜め上である。元値は650円程度なのに。しかし、本の状態は極美で帯付である。それに、何故かこういうときに限って全品25%セールなどやっている。ありがたい、ありがたいのであるが、しかし、文庫本一冊にこんな値段をかけていいものなのか、いや馬鹿なんじゃないか、引き返せるのは今のうちだぞ、おーい・・・、気づけばレジへ本を持って行っていた。これにて新潮文庫の復刊のコンプリートは成し遂げられたのであった。・・・なんかちょっと複雑な気持ち。
ちなみに、「野生の棕櫚」以外で、あまり見かけなかったのが「田舎司祭の日記」「落穂拾ひ・聖アンデルセン」「天使よ故郷を見よ」「秋の断想」など。「燈台へ」もちょっと前に話題になってしまったので見つけづらいかも。これから探す人は頑張ってください。定価以下ですべて集めるのはおそらく無理です。
これまでの話はさておいて、どういう経緯でこのシリーズが始まったのか、手元に資料がないのでわからないが、モノ自体は、94年1月から7回に分けて合計100冊が復刊された。本のカバーの大まかなデザインは統一されていて、日本人作者がえんじ色、海外作者が群青色が基調のカラーである。手触りも通常のカバーより若干高級感がある。ナンバリングはB-(復刊第●回の数字)-(回数内での順番)となっている(と、書いているうちに思ったのだが、今回の復刊がB-()-()ということは、A-()-()なる文庫は存在するのであろうか。わからない)。

さて、肝心のラインナップであるが、以下の通りである。
第一回

B-1-1 釣師・釣場 井伏鱒二
B-1-2 葛西善蔵集
B-1-3 聖ヨハネ病院にて 上林暁
B-1-4 からたちの花 北原白秋
B-1-5 北愁 幸田文
B-1-6 福沢諭吉 小泉信三
B-1-7 永遠なる序章 椎名麟三
B-1-8 碑・テニヤンの末日 中山義秀
B-1-9 諷詠十二月 三好達治
B-1-10 随筆女ひと 室生犀星
B-1-11 天使よ故郷を見よ(上) トマス・ウルフ
B-1-12 天使よ故郷を見よ(下) トマス・ウルフ
B-1-13 権力と栄光 グレアム・グリーン
B-1-14 チェーホフの手帖 チェーホフ
B-1-15 火の娘 ネルヴァル
B-1-16 世界文学をどう読むか ヘッセ
B-1-17 西洋音楽史 ハウル・ベッカー
B-1-18 鹿の園 ノーマン・メイラー
B-1-19 英国史(上) アンドレ・モロワ
B-1-20 英国史(下) アンドレ・モロワ
第二回

B-2-1 泡鳴五部作(上) 岩野泡鳴
B-2-2 泡鳴五部作(下) 岩野泡鳴
B-2-3 落穂拾ひ・聖アンデルセン 小山清
B-2-4 佐藤春夫詩集
B-2-5 おかめ笹 永井荷風
B-2-6 谷崎潤一郎論 中村光夫
B-2-7 シェイクスピア 吉田健一
B-2-8 燈台へ ヴァージニア・ウルフ
B-2-9 白き処女地 ルイ・エモン
B-2-10 ショパン コルトオ
B-2-11 ジャム詩集
B-2-12 帰郷(上) ハーディ
B-2-13 帰郷(下) ハーディ
B-2-14 詐欺師フェーリクス・クルルの告白 トーマス・マン
B-2-15 ピエールとジャン モーパッサン
第三回

B-3-1 婦系図(前篇) 泉鏡花
B-3-2 婦系図(後篇) 泉鏡花
B-3-3 暢気眼鏡 尾崎一雄
B-3-4 黙阿彌名作選 河竹黙阿彌
B-3-5 太公望・王義之 幸田露伴
B-3-6 筏 外村繫
B-3-7 生まざりしならば・入江のほとり 正宗白鳥
B-3-8 ルーマニヤ日記 カロッサ
B-3-9 愛をめぐる随想 シャルドンヌ
B-3-10 わが思い出と冒険 コナン・ドイル
B-3-11 失われた地平線 ヒルトン
B-3-12 女学者・気で病む男 モリエール
B-3-13 息子と恋人(上) ロレンス
B-3-14 息子と恋人(中) ロレンス
B-3-15 息子と恋人(下) ロレンス
第四回

B-4-1 自註鹿鳴集 会津八一
B-4-2 子を貸し屋 宇野浩二
B-4-3 雀の生活 北原白秋
B-4-4 都会の憂鬱 佐藤春夫
B-4-5 重き流れの中に 椎名麟三
B-4-6 もめん随筆 森田たま
B-4-7 小鳥の来る日 吉田絃二郎
B-4-8 法王庁の抜穴 ジッド
B-4-9 メリー・スチュアート(上) ツヴァイク
B-4-10 メリー・スチュアート(下) ツヴァイク
B-4-11 暗黒事件 バルザック
B-4-12 ホフマン物語 ホフマン
B-4-13 要約すると モーム
B-4-14 闘牛士 モンテルラン
第五回

B-1-1 学生時代 久米正雄
B-1-2 芭蕉入門 幸田露伴
B-1-3 如何なる星の下に 高見順
B-1-4 風俗小説論 中村光夫
B-1-5 日夏耿之介詩集
B-1-6 家族会議 横光利一
B-1-7 芥川龍之介 吉田精一
B-1-8 ゴールズワージー短編集
B-1-9 神の小さな土地 コールドウェル
B-1-10 戦う操縦士 サン=テグジュペリ
B-1-11 野生の棕櫚 フォークナー
B-1-12 劇場 モーム
B-1-13 フランス史(上) モロワ
B-1-14 フランス史(下) モロワ
第六回

B-6-1 伊藤静雄詩集
B-6-2 嘉村磯多集
B-6-3 多情仏心 里見弴
B-6-4 青銅の基督 長与義郎
B-6-5 東北の神武たち 深沢七郎
B-6-6 叡智 ヴェルレーヌ
B-6-7 光ほのか オード
B-6-8 城砦(上) クローニン
B-6-9 城砦(下) クローニン
B-6-10 秋の断想 ジッド
B-6-11 王道 マルロー
第七回

B-7-1 赤蛙 島木健作
B-7-2 浮沈・来訪者 永井荷風
B-7-3 詩の原理 萩原朔太郎
B-7-4 幼年時代・あにいもうと 室生犀星
B-7-5 吉井勇歌集
B-7-6 トム・ソーヤーの探偵・探検 マーク・トウェイン
B-7-7 醜女の日記 プリニエ
B-7-8 田舎司祭の日記 ベルナノス
B-7-9 蝮のからみあい モーリヤック
B-7-10 アメリカ史(上) モロワ
B-7-11 アメリカ史(下) モロワ
以上、100冊。
これらラインナップの中から、通常ラインナップに復帰した本もいくつかあり(「婦系図」「劇場」など)、当時のことは私は知らないが、結構好評だったのではないかと予想される。今回の復刊までにあまり版が全く重ねられていないものも復刊されており、小説だけでなく、詩や評論もカバーされていて、広く目が行き届いている印象である。
文学書も売れなくなり、自分が新潮文庫を読み始めた25年前くらいと比較しても、現行ラインナップは大分様変わりしてきていると思う。またどこかで改めて同じようなシリーズ復刊をやってもらえると嬉しいなと思うのですが、新潮文庫さんどうでしょうか。