備忘録、的なもの

本との日常 購入日記その他

成瀬書房本について、ちょっとした目録も添えて

・先日とある古本屋に行った際に店員が電話でお客と話していた内容が興味深かったためついつい盗み聞いてしまったのだが、店員が話している内容からの推測した感じでは、成瀬書房本の私家版を買ったが、通常本とどこも違う感じがするため返品したいと客が言っているようであった。
まあ確かに、私家版と一般頒布版で違いはほとんどないと思われるが、それがために返品というのもなあと思わんでもない(というか、現品を確認してから買えよ、と思った)。

・そういえば、成瀬書房についていつから始まっていつ頃消滅したかよくわからない。その上、24年8月現在であまり成瀬書房について扱っているページはほとんどなく、下記のページが何となく書いてあるが、全貌はよくつかめない。
https://goatsheadsoup-musikus.blogspot.com/2007/04/blog-post_08.html

・他に引っかかるのはほとんど古本屋やオークションのページばかりであるが、ボヘミアンズギルドのこのページではたまたま大量に入荷したのか色々と並べられていて壮観である。
https://www.natsume-books.com/natsumeblog/?p=28842
ネット上にもあまり記事がないため、今回自分で知っている限りのところをまとめてみようと思った次第。

 

・と、いっても自分もあまり知っているわけではない。1970-90年代前半にかけて作家の肉筆入り豪華本を出していた出版社で、いつの間にか消失した、というくらいである。
70年代前後の限定本ブームに乗っかって出てき、バブル崩壊とともに消えていった印象である。自分が知ったのはとある古本屋で投げ売りされていたのを見つけてからで、出版当時を知るわけではない。しかし、各冊意匠が異なる装幀であり、実際に手に取って見ると面白かったためにすこしずつ集めていったということはある。

・成瀬書房は東京都文京区本駒込あったようだが、グーグルマップで調べてみると今現地は別な方の表札になっているため住所は載せない。
当時の刊行チラシには
収録作品は現代代表作家の原点といわれる処女作、若しくは初期代表作です/各冊違った装幀で、名人職人による手作り本です/全冊肉筆毛筆署名・落款・限定番号入り
とある。

 

・試しに手近にあった「15歳の周囲」を例に見てみよう。

本体は外函に入れられている。帯風の紙が外に巻かれており、それがあって完本となるだろう。

外紙を外すと朱地の紙が貼られており、タイトル等が書いてある。

外函を外したところ

「15歳の周囲」は和本仕立てであり、反物装帙に収められていた。作家によって装幀が全く異なるため、面白い。

一応全冊署名入り(のはず)

あとがきは手書き原稿をそのまま載せている巻が多い(中上健次「岬」のようにそもそも載っていないものもある)

奥付。私の所持本は私家本のため、そう書いてあるが、本来はそこに記番されるはず。私家本の部数も記入されている。こういう記載であるため、あまり私家本と頒布本には差はないと思われる。値段は当時としてもねえ・・・、という感じ。

 

・以上のような具合である。これがゾッキに回ったものはどうやら奥付が貼られていないようであるが、製本はきちんと済んだものであるため、作家署名は一応あるはずである。

ゾッキに回ったのであろう藤枝静男「路」 奥付がある場所に貼られていない

とはいえ、署名はちゃんとある上、造本も大丈夫である。あまり売れなかったのだろうなあ・・・。

・以下に、85年に中上健次「岬」に封入されていた目録を参考にしながら、調べられた限りで刊行物を列挙してみる。

≪いわゆる肉筆限定本≫
松本清張 或る「小倉日記」伝 200部
里見弴 善心悪心 200部
野上彌生子 ・父親と三人の娘 200部
八木義徳 劉廣福 200部
芹澤光治良 ブルジョア 200部
新田次郎 強力伝 200部
水上勉 五番町夕霧楼 200部
若杉慧 ひそやかな飼育 200部
大岡昇平 野火 300部
円地文子 妖 300部
阿川弘之 年年歳歳 300部
安岡章太郎 悪い仲間 380部
菊村到 硫黄島 506部
丹羽文雄 鮎 300部
吉行淳之介 原色の町 506部
佐藤愛子 ソクラテスの妻 506部
遠藤周作 アデンまで 506部
北杜夫 牧神の午後 480部
石川達三 蒼氓 300部
尾崎一雄 二月の蜜蜂 506部
島尾敏雄 島の果て 506部
小島信夫 小銃 228部
永井龍男 黒い御飯 200部
武田泰淳 月光都市 200部
石原慎太郎 太陽の季節 200部
井伏鱒二 山椒魚 200部
富岡多恵子 丘に向かって人は並ぶ 200部
開高健 流亡記 200部
堀田善衛 広場の孤独 200部
吉村昭 少女架刑 200部
草野新平 第百階級 200部
野間宏 暗い絵 200部
藤枝静男 路 200部
中村真一郎 死の影の下に 200部
ジッド 狭き門 200部
野坂昭如 火垂るの墓 200部
大岡昇平 俘虜記 200部
河野多恵子 幼児狩り 200部
三浦哲郎 十五歳の周囲 200部
石坂洋次郎 海を見に行く 200部
瀬戸内晴美 花芯 200部
中村光夫 鉄兜 113部
川崎長太郎 裸木 113部
森敦 酩酊船 200部
石上玄一郎 柴窯の壺 113部
瀧井孝作 弟・父 200部
森敦 月山 200部
木下順二 夕鶴・彦市ばなし 113部
埴谷雄高 不合理ゆえに吾信ず 200部
大庭みな子 三匹の蟹 200部
森敦 鳥海山 130部
山口誓子 凍港 黄旗 120部
加賀乙彦 くさびら譚 113部
中上健次 岬 113部
森敦 杢右ヱ門の木小屋 113部
水上勉 越後つついし親不知 113部
山本健吉 鎮魂歌・迢空幻想 113部
井上ひさし 手鎖心中 113部
串田孫一 乖離 113部
小川国夫 青い落葉 113部
岡本かの子 老妓抄・川 113部
生方たつゑ 花のこゑ雪の花 113部
内村直也 秋水嶺 113部
司馬遼太郎 故郷忘じがたく候 113部
室生犀星 故郷の町 蟲姫日記 113部
曽野綾子 遠来の客たち 
三浦朱門 冥府山水図 113部
日野啓三 向う側 113部
堀辰雄への手紙 113部
黒井千次 穴と空 113部
宇野千代 人形師天狗屋久吉 113部

その他、特別愛蔵本として以下が出ていたよう
大岡昇平 肉筆画装 野火 20部
井伏鱒二 魚拓装 山椒魚 18部
ジッド 宝石本 狭き門 10部
石川達三 肉筆画装 蒼氓 30部
丹羽文雄 魚拓装 鮎 30部
石坂洋次郎 肉筆画装 海を見に行く 10部
宇野千代 大人の絵本 100部
石原慎太郎 肉筆画装 太陽の季節 15部
草野心平 肉筆画装 第百階級 15部
森敦 肉筆画装 酩酊船 15部
松本清張 肉筆画装 或る「小倉日記」伝 15部
井伏鱒二 二人の話 20部
石原慎太郎 十代のエスキース 

上記とやや判型が違うもので
宮柊二 冬至集 200部 
島尾敏雄 はまべのうた 80部

その他、何冊か出ているようだが今回は略。


・特別愛蔵本の方のラインナップは宇野千代のものを除いていずれも限定本と似たラインナップであり、肉筆画がついたり装幀が豪華になった分部数も少なく値段も高い。また、部数がそもそも少ないため見かけることが滅多にない。
上記大部数本でも、作家によっては署名の価値が高いと判断され、未だに高価であるものがいくつかある(開高健岡本かの子(岡本太郎がサイン)、司馬遼太郎松本清張など)。

・平成4年の「十代のエスキース」以降は肉筆限定本の刊行はぷっつり途絶えたようである。もしかしたら「十代のエスキース」に次回刊行案内が入っている可能性があるが、私は未所持のため確認ができない。

・それにしても20年くらいの間にここまで色々と出せたものである。これらの本をすべて集めきった人は果たしていたのであろうか。(これは私見かもしれませんが)段々集めるに値するかどうかという作家も混ざったりしている上、何より嵩張る本をしまっておくスペースの確保も難しい。また、保管するとなると結局、並べやすい外函に入れっぱなしになってしまうため、肝心の豪華装丁に触れる機会があまりない(これは当時の限定本すべてに言える)。

同じ体裁の本が並ぶのは壮観だけれど、狭い家だとこれだけの本でもスペースを持っていかれるのは大変

 

最初は部数はある程度はけたかもしれないが、徐々に売れなくなっていったであろうことは容易に想像される。段々経営が厳しくなり自然消滅した、と考えるのがよさそうである。ちょうどバブル崩壊の時期と重なっているし。

 

・とはいえ、(一部を除き)比較的お手軽な値段で作家の肉筆と、現在ではもうお目にかけることがほとんどないであろう豪華装丁の息吹に触れることができる点は素晴らしいと思う。全冊集めなくとも、上記リストの中で興味のある作家がいるようであれば手に取って見るのも一興かと思われる。

2024.8.7 名古屋古本巡り

・世間では下鴨納涼古本まつりが話題であるが、今年度も私は行けないため、先日名古屋に行ったことでも書こうと思う。

 

・先日10年ぶりくらいの名古屋上陸を果たした。前回名古屋へは友人たちとの旅行で訪れたということもあり、個人プレイが著しく制限され、どこの古本屋にも寄ることができなかったが、今回は違う。思いっきり行ける所へ行ってやるという意気込みを立てたはよいものの、普段の怠惰な性格のせいで当日までろくに予定は立てずという無計画さ。とはいえ、文学好きとしてはやはり千代の介書店が気になっていたので、そこをメインとすることにした。千代の介書店がある藤が丘は地下鉄の終点でもあり、名古屋市の中では端であるため、そこから帰ってくるように経路を立てるのが合理的かなと考えた。

・千代の介書店のホームページを見てみると、やっているかどうかわからないため、予め電話してくださいとの記載があったため電話をかけてみたところ、やっているとのことであったため、栄から東山線に乗り、終点の藤が丘まで向かった。今回利用したホテルが地下鉄沿線であったため、市営地下鉄一日乗車券を買ってみることにした。乗った時点から24時間有効であるため、使い始めの時間によっては翌日も使用でき、とても便利である。

・藤が丘は駅の目の前が公団団地であり、穏やかな雰囲気である。東京で言えば光が丘のような感じか。駅裏の建物が非常に年季が入っている印象であり、趣は感じるものの、光が丘同様高齢化問題は迫っている印象を受けた。

・そこから歩いて5分程度のところに千代の介書店はあった。外から見ると思ったより小さいなという印象であったが、スライドドアを開けて入ってみると、ああ、写真で見かけたような本の廻廊が広がっている。

外見は小さいようにも見えるが・・・

・中は4列本棚が広がっていて、入り口付近に文庫、そこからレジにかけて文芸書がおおむね著者50音に従って並んでいる。レジに向かって左2列は美術書や専門書が並んでいる。店主は「東京の本屋と比べるとそんなに珍しいものはないと思うけれど」と謙遜されていたが、そんなことはない。確かに偏りはあるものの、20-30年前くらいまでの文芸書をこれだけ系統立てて揃えているところはほとんどないのではないだろうか。ある作家を系統立てて揃えたいときに、方々へ探しに出るのは大変であるため、文芸書のみこれだけ揃えている店はありがたいものだ。また、並んでいるさまをみるのは気持ちがいいところもある。ど珍しい本はあまりないかなという印象を受けたが、インターネットに一切在庫を載せていないため、宝探し気分で棚を見てみる楽しさはある。
・それと、並んでいる本すべてにビニールカバーをかけていたのが印象的であった。それも、店主の配慮である。本をとても大事にしているということが伝わってきた。しかしそういうことができるのもあまり経営ということを考えずにということがあるのかもしれない。現在店主は88歳であり、この先どこまでやれるかなとおっしゃっていた。いつまでも元気にやっていてほしいと願うが、いつまでやれるかというのも確かにその通りだと思う。次に自分が名古屋へ行くときはやっているかどうかわからない。しかし、大事にしたい本屋だと思った。

・千代の介書店での購入物
①夏の朝の成層圏 池澤夏樹 中央公論社
②文学の創造 中村真一郎 未来社
③遠くのこだま 福永武彦 新潮社
④片蔭の道 堀多恵子 青娥書房
系統立てて並んでいるというのはとてもすごいのであるが、結局自分が買おうと思うと自分の趣味の作家の持っていないものをということになるのであった。進歩がない。②は署名入りであったが宛名は消されていた。④は串田孫一装丁による変わった判型の本である。中村真一郎も「長い回復期」を出している本屋であるが、他にも周辺作家で同型の本を出しているのであろうか。今度調べてみよう。


・さて、続いては百萬文庫である。近くにブックオフもあるようなので川名駅で降りて歩いて行ってみることにした。川名駅前には川名公園の野原が広がっており、とても暑い中遊んでいる子供がたくさん見られた。元気だな・・・。
・公園の端まで行き、国道153号と県道56号の交差点から右へ少しずれた道をしばらくたどっていくと、商店街のように小店が並んだエリアがあり、その中の一角が百萬文庫であった。店先には均一文庫が並んでいてとても安い。中も名前に遜色ないくらいたくさん文庫が並んでいた。値段もとんでもないものはあまりなく、むしろ良心的な値付けであったため、近くにあったらここで文庫を集めまくっただろうなと思ったのであった。何でこんな本にこんな値段がというのが色々あり、非常に勉強になった。文庫本の値段のつけ方は非常に難しいのだなという思いを新たにした。

外見からは想像できないほどの店内は文庫の海

・文学の常識 中野好夫 角川文庫
店先の均一から。状態が非常によいにも関わらず50円であった。今回百萬文庫を訪れた理由としては、新潮文庫の復刊で残った一冊を見つける目的だったのだが、ここでも見つからず。残念であった。揃うのはいったいいつになることか。

 

・続いてブックオフ名古屋河原通店。百萬文庫から歩いて10分ほどのところにある中型店である。目ぼしいものはなく終了。その後川名駅まで戻り、鶴舞駅へ。駅からすぐのところに山星書店と大学堂書店が並んでいた。どちらも全集類が棚上に並べられているところからわかる通り、やや格式高い印象を受けた。
・そこからさらに熱田神宮方面へ。熱田神宮伝馬町駅から国道1号に沿って行くとブックオフプラス熱田国道一号店がある。ここは大型店舗で、ホビーから本まで各方面揃っているが、こういう大型店あるあるで本を軽視する傾向にあるためあまり期待をしていなかった。ところが、それに反して本のコーナーは広く取られていたし、函物全集類コーナーも取られていた。その中で「河盛好蔵 私の随想選」で唯一持っていなかった4巻があったため、これは買おうと思って函の中を見てみると、3巻が入っていたのであった。こういうのはよくない。中身と外身の相違くらいは気づいてほしいよ。危うく買わずに済んだ。

熱田神宮にお参りした後、駅前の商店街内にある言ノ葉堂さんへ。店先の均一はいいのがあるなあと思って期待を膨らませて店内に入ったものの、棚の揃え方がイマイチわからず、色々巡った疲れもあるのかあまりよく棚を見れず、何も購入できず終わってしまった。また今度ゆっくり見てみたいところ。
・最後にブックオフスーパーバザー栄スカイル店。商業ビルの8階にある大型店である。商業ビルの中にあるものとしては本の数がとても多かったがここでも何も買わず終了。この時点で20時近くになりお腹が空いたため、これにて古本屋巡りは終了してしまったが、もう2店舗くらいブックオフは行けた気がするな。

ドナルド・キーン著作集第一巻 新潮社
熱田国道1号店で見つけた。しかも署名落款入り。こういうのが落ちている可能性があるからブックオフも完全には捨てられないのよなあ。

落款が面白いですね

 

矢場町→藤が丘(千代の介書店)→川名(百萬文庫、ブックオフ河原通店)→鶴舞(山星書店、大学堂書店)→熱田神宮伝馬町(ブックオフ熱田国道一号熱店、古書言ノ葉堂)→栄(ブックオフ栄スカイル店)

以上のような行程であった。今回は雑な計画で巡ったこともあり、もう少しきちんと計画を立てれば何軒か追加できたような気もする。まあそれは次回以降の課題ということで。もっとこうすればよかったんじゃないかというご意見や、名古屋の古本屋情報についてもしご存じの方がいらっしゃいましたらコメント欄にお寄せいただけると嬉しいです。

2024/7/14 古本案内処/中野の思い出

・古本案内処が店舗販売終了(ネット・古書展での販売は継続なので、閉店ではない)に伴って半額セールをやるとの情報を得たが、用事があったため当初は行かないつもりでいた。しかし、結局行かずに後悔するくらいならと思って無理矢理調整をつけ、行ってみたのであった。着いたのは二日目夕方過ぎであったが、いつもより店内に人は多かったように思う。

・古本案内処は早稲田通り沿いの小さなお店であり、古本案内処という淡白な名前・看板の割には中々に広い視野のよい在庫がある本屋であった。

店前の看板と佇まい

私が店内でよく見たのは、店舗前の均一文庫・新書棚、そして店舗に入って左2列の日本文学系の文庫の棚、店舗右奥の番台となりの人文学系の文庫・新書棚、店舗中央奥の日本文学・外国文学棚である。ど珍しい本というのはあまりなかったが、最近見かけないなあというような文庫本をかなりの破格で入手することができたため、私は重宝していた。今年で9年であったとのこと。確かに私が大学に通っていた頃には店舗はなく、いつの間にかできていたのをひょっこり見つけた記憶がある。高円寺の古書展でここはいい本並べているなと思って検索したのが始めだったかなそういえば。


・今回、以下購入。
 惜櫟荘主人 小林勇 講談社文芸文庫
 彼岸花 小林勇 講談社文芸文庫
 海図 田久保英夫 講談社文芸文庫
 同時代作家の風貌 佐々木基一 講談社文芸文庫
昔の講談社文芸文庫は内容がよいのでくさることはない。惜櫟荘主人は岩波茂雄の生涯を身近にいた人間の眼から描いたもの。安部能成のものとは違った目線で語られる。佐々木基一のは原民喜を目当てに今回は買ったが、文庫オリジナルで様々な作家論が入っていて色々と楽しめそう。
 タラスコンみなと ドーデ― 岩波文庫
 艶笑滑稽譚全3 バルザック 岩波文庫
 ウイリアム・モリス通信 小野二郎 みすず書房
艶笑滑稽譚は新刊時に買おうと思っていて見送っていたが、三冊750円で状態もまあ悪くなかったので購入。外国文学棚の下のところに色々と並んでいたが、もう少し見てみればよかったなと反省。

・全部購入しても2420円であった。元々の値だったとしてもお手軽である。とてもありがたい。高円寺の古書展でも、同様の値付けでやってられたので、今後も高円寺で見かけた際は購入していこうと思う。何でこんなに安いのかなと思っていたが、店主がささま書店の出身ということであり、それを踏襲していたのかなとも思う。

 

・他の方も書いていたが、これで中野の古本屋に見るべきところはほとんど無くなってしまったような気がする。ブックオフ中野早稲田通り、古書うつつ、古本案内処、、、

空犬通信 古書うつつ、古本案内処、まんだらけ、ブックオフ……中野で古本屋巡り (fc2.com)

6/13東京・中野 古本案内処・プロトタイプ!: 古本屋ツアー・イン・ジャパン (seesaa.net)

・今回中野ブロードウェイにも通りすがりで通ったが、アニメ・漫画系統は大賑わいのようであった。ついでに2階にある古書うつつも覗いてみようと行ってみたものの、やっているのかやっていないのかよくわからないような感じで半分シャッターが閉まっていた(とはいえ、健在ではあるのであろう)。大昔、古井由吉の初版本その他を狭い(失礼)店舗の奥の奥の棚から探した記憶が思い出される。また、「古井由吉作品全7巻」を購入したのもここであった(買ってそのまま大学に持っていったら皆に何やってんだという体で見られたなそういえば)。ブックオフも江古田・東中野高田馬場と同じフランチャイズ系列で、他のブックオフとは一線を画した在庫で行くたびに面白さがあったよなあ・・・。


・古本案内処のような骨のあるお店でも店舗営業を続けるのが大変なのだとすると、やはり古書業界は大変なのだろうと思わざるをえない(今回店舗営業をやめるのがどのような理由なのかはわかりませんが・・・)。今回の拙文をお読みいただいた方は重々ご承知だとは思うが、閉店を惜しむ前に、まずは平常時から買ってください。無くなるのがわかってから惜しむのでは遅すぎる。惜しむ前にそもそも無くならないようにしたいところ。ひとまず、この9年間ありがとうございました。

2024/7/6.7 七夕など

・色々と思うところはあったが購入にはいずれも繋がらず。

・七夕。今年はあまり見るべきものがないね、と目録を送ってくれた古書店主の話を聞いていた中で目録を眺めると、確かに昨年度と比較すると明確に食指を動かされるものがなかった(余談だが、堀辰雄の「菜穂子」ノートの元版を出していたりした森井書店の目録の方がよっぽどよかったと思いました。どうでもいいことですが)。そのため、都心に出る用事があったにも関わらず、結局下見にも行かなかったのだが、今から思えば冷やかし目的で行ってみてもよかったかもしれない。以下気になったものについて少し言及。
①福永の色紙。怪しいと思っていた中でさらに福永武彦研究会の三坂氏が贋作の可能性が高いと言及されていたので余計に興味も湧かなかったが、今思えば実際の筆致は見てみてもよかったかも。取り下げにはならず、入札者もいたようなので、いずれどこかで見かけることはあるかもしれない。どうも詩句と名前のバランスが悪い印象で、詩句があったあとから無理矢理名前を入れこんだもののようにも推察する。しかし、落款も入っていたがあれは偽物なのであろうか。あれに似た安物色紙を古書展で見かけたことが以前あったようにも思うが、出回っているのだろうか。
福永武彦詩集限定50部本。黴が生えていて状態が悪いとのことであったが、自分は直接手に取ってみたことはなかったため、識語がどんなものだったかも含めてみてみてもよかったかもしれないな。状態悪い本であれば入札価格も安かった可能性あるし、場合によっては15くらいでいけたかもしれないな。
③中国行きのスロウボート。湯川書房本の中で人気も金額も最も高いものであろう。どうせ今後見かけることがあるだろうからなと思っていたが、この会での方が実際に購入するよりは多少安く入手できたかもしれないなと後から思った。30入れたらいけたかもしれない。
バタイユ死者25部本。こちらもサバト館刊行だが、実際には湯川書房が関与している。こちらもまだ古書ドリスに在庫があるレベルなのでまあいいかと思ってしまい見送り。しかしいずれは手にしたいところである。こちらも30入れればいけただろうか。サバト館の本は毎年出ている印象なのでまた来年以降でも見かけることはあろう。
ということで、気になったものも別に今回限りというのはなかった。もう少しもの珍しさが欲しい。

・高円寺。久々に行った。外が暑いため入り口の扉を閉め切られていたのは夏恒例であるが、しかし何も知らない人からすると入っていいものなのかどうかわからず、入るのを拒まれているようにも感じられた。行ったのが久々だからなおさら。岩波文庫サッカレーの「虚栄の市」箱入りセットが値段に比して綺麗であったのが気になったが、文庫でバラで買っていたような気もして結局買わず。またその近くに加賀乙彦編集の現代のエスプリ「作家の病跡」があり、非常に気になったが、しかしこの解釈に引っ張られてしまったらもう楽しんでものを読めないと思って結局買えなかった。
古本案内処の棚も目当てにしていたが、想定外にパッケージ無しAVばっかり陳列されていて、手に取るようなものはなく終了。店舗営業も今週末で終わってしまうようで寂しいな。中野もブックオフや古書うつつもなくなったし、余計寄り付かなくなってしまう。

そんなことを言いつつ、最近はもう目録やヤフオクで注文するばっかりで、あまり足で探すということをしなくなってきたような。横着気質。若くなくなってきたというのと、何でもかんでも買うという時期を脱してしまったというのがあるのかもしれない(と言ってもまだまだとんでもない感じではあるが)。

ブックオフ求龍堂から出ていたアリスの本が気になった。不思議の国の“アリス” ルイス・キャロルとふたりのアリス|求龍堂 (kyuryudo.co.jp) もう少しきれいなやつを見つけることにして見送り。周辺情報も色々と載っていてとても面白い。絶版にはなってしまっているようなので、頑張って見つけるしかない。

その他、盛林堂やよみたやも帰りは通過するはずであるが、外は暑く寄る気力なく帰宅。今週末は全く買わずに終了したのであった、という無駄な報告でした。

日本近代文学館の新収蔵資料展

先日、日本近代文学館へ行ってきた。ちょうど新収蔵資料展というのをやっていた。新収蔵資料展 - 日本近代文学館 (bungakukan.or.jp)

昨年の新収蔵資料のうちからの展示で、色々と興味深いものがあった。坂上弘の原稿、長田弘の「世界は一冊の本」の原稿や、福永武彦の書簡など(「玩草亭百花譜」や「病牀日録」の原本も展示されていたが、後半では展示替えになってしまった)。大江健三郎の「性的人間」の原稿も出ており、内容に比して独特の文字であり、何とも言えない気持ちにさせられた(「何とも」の中身については今回は明言を避けるが…)。

そのなかで中村真一郎の「新長篇小説の構想」メモというのが展示されていたので、全文書き写してきました。

 

中村真一郎「新長篇小説の構想」メモ
「90年代仕事計劃 緑川氏に呈出」と書かれた封筒に収められていた。緑川氏は当時の岩波書店社長緑川亨(1923-2009)。「四季」四部作以降の長篇小説の構想がつづられ、「老主人公が性的快楽の未知の残された冒険に没頭」など具体的なイメージがみられる。
岩波書店寄贈


新長篇小説の構想
意図 前作「四季」四部作において完成した「東西西洋のの人文主義」と「宇宙の一者との集合」の人間観を、根底からもう一度、人類の集合的無意識にまで沈下して分解し、主人公に人間の可能性の全領域を経験させる。
着想 死を眺めた老主人公が性的快楽の未知の残された冒険に没頭
構想 そのためのドストイエフスキー的深淵と、サッカレー的ロマネスクの展開の組み合わせ
地肌 可能なかぎり、精密な感覚的描写と形而上学的考察との対位法的表現
主題 性や貧富や年齢による人間の崇高さと愚劣さの全てのオクターヴの表現、特に女性の貞節さときまぐれの二面性の秘密
筋 両性の欲望を持つ引退した老実業家と若い美容師の男性と人気女優との共同生活への過程と、その美容師の客である娘の献身的貞節
効果 最も猥褻な貞操小説「クレーヴの奥方」の裏返し
手法 フォークナー式の形式のなかに、生者死者の人物たちの「意識の流れ」の導入、時間からの解放、あの世への出入
人物 女性たちの男性との根本的相違

 

四重奏がおそらくこのメモにあたるのか。だとしても実際には中央公論社から出ることになってしまったのでそのあたりの経緯は何かあったのであろうか。私は四重奏はまだ未読で、これを機に少しずつ読み始めてみたのだが、確かに上記メモを窺わせる男女と“会長”が出てきている。

 

ご興味ある方は3月30日(土)までに行ってみてはいかがでしょうか。

遠藤周作「深い河」特装版

ヤフオクに出ていたのと、ネット検索してあまり引っかかってこなかったので載せてみる。

 

限定300部刊行。装い帙入り。クロース装。天・小口・地のすべて三方金という豪華さ。外箱、刊行案内揃って完本となるのかな。

奥付を見てみると非売品とあり、文化勲章受賞時の記念に作られたものらしい。当時余剰分を市販していたかは不明。
私もこれを入手した時に初めて存在を知り、以降もごくたまに見かける。

刊行案内状に「ガンジス河の夕焼けをイメージした」とあるが、実際に手に取って見てみると、この朱色はとてもきれいである。装幀は菊地信義


内容は言わずもがな。遠藤周作晩年の作ということもあり、集大成の内容である。登場人物たちもそれぞれおなじみの遠藤周作の分身たち(病院運動、テレーズ、九官鳥、戦争、キリスト者、疎外感 etc)であり、若いころからのイメージ・問題の追及を晩年まで続けていたことがよくわかる。

 

遠藤周作の特装本には他にも「イエスの生涯」や「侍」がある。限定本としては「堀辰雄論」と成瀬書房の「アデンまで」があるらしい。
「侍」には限定本として市販されたものの他に、長男の結婚式の際に配り物として作成したものがあり、こちらもたまに出回っている。限定350部。

愛書狂と古本マニアについて 2/2

筑摩書房 古本大全 / 岡崎 武志 著

かなり昔に購入した「愛書狂」を今さら持ち出したというのも、先日とある古本屋を訪れたところ、岡崎武志「古本大全」(ちくま文庫)、「昨日も今日も古本散歩」(盛林堂書房)を見かけたからであった。あまり古本者の本はこれまで買ってこなかったのであるが、サイン入りであったこともあり、ついつい買ってしまった。読んでみるとこれがなかなか面白い。これまでに出された数冊の著書からのベストオブベストともなっており、特に第一部は古本初心者向け心得として非常にお勧めできる。
表紙裏には一冊ごとに違う挿絵が入れられているらしい。私のものはバッタかな?かわいらしいというか味があるというか。 


また、古本者といえば、ちょっと前に話題になった「新古書ファイター真吾」(皓星社)。

新古書店ブックエフを舞台にした古本ファイターたちの血みどろの争いを描いた好編である。慎吾その他のキャラクターたちの感情いずれもあるあるのわかりみが深い(なんという言葉だ)。
自分もブックオフへは中学生の頃から通っていて、それがあって当然という世界線で過ごしてきた。何だかんだブックオフ歴としては大分長くなってしまったわけである。確かに往年の(という言い方も変であるが)ブックオフと比べると、大分値付けも品ぞろえも様変わりしてしまい、「掘り出し物を見つけた!!!」と心の中で叫びたくなる状況は大分少なくなった印象はある。とはいえ、地元の古本屋が壊滅しつつある状況下では、すぐに売りに行けるブックオフという存在は受け皿としては頼もしいものであり、今後も確率は低いものの、珍しいものや掘り出し物が拾える可能性はまだまだ秘められている。私は今後も通うのはやめない。動けなくなるまで通い続ける所存である。