備忘録、的なもの

本との日常 購入日記その他

自鳴鍾

昭和33年1月30日 初版 新潮社刊

装丁 加藤栄三

書き下ろし長編。

家庭生活に飽きた主人公、夫が自分に振り向いてくれないがゆえに若者を誘惑する妻、純潔な心をもつ童貞、進歩的な考えを持つがゆえに現実世界から浮き気味の社会学者、財界のフィクサー等が一人の若い女性を媒介にしてもつれ合い、最終的には"冥府"に至る。最後は(当然ながら)急展開になってしまうが、伏線もよくできていて面白い。「冥府」という言葉の使い方は福永武彦とはまた違った感じだなと思う。

帯裏には著者の言葉として「現代の日本の社会は、一定の目標を失い、従ってぼくらの生活を規制する道徳もなくなっている。・・・・・・そういう現代の人間の空しい自由の生活を、ぼくはこの小説のなかで描こうとした。もし救いを提出できなくとも、最も切実な事実を、純粋状態にまで抽出して示すことが、文学者の使命ではないかと思ったからである」とある。

映画の輸入会社で働いている主人公というのが少し気になったが、山崎剛太郎から発想を得たのであろうかな、とつい最近「忘れ難き日々、いま一度、語りたきこと」(春秋社)を読んで思った。