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国葬ともやもや

彩の国古本祭りに行った後、渋谷の映画館へ行った。なぜわざわざ渋谷なのかというと、そこでしか上映されていない映画を見に行きたかったからである。ロシアの映画監督ロズニツァの特集をやっているのであった群衆 セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選 SERGEI LOZNITSA OBSERVING A FACE IN THE CROWD | シアター・イメージフォーラム (imageforum.co.jp)

それを知ったきっかけは3日のニュースウオッチ9であった。群衆三部作が公開され、好評だということで監督にインタビューを行われたのであった。スターリンによるテロルの幕開けとなるでっち上げ裁判の記録「粛清裁判」、その20年後のスターリンの死とその葬儀の記録「国葬」、形骸化したダークツーリズムに警鐘をならす「アウステリッツ」が三部作ということでまとめられている(が、今回まとめて上映されるから三部作ということに便宜上しているだけだろう)。これまでに世界的な賞をとることもあった人であるが、作品自体は日本初公開だそうである。インタビューの中で「この作品は今の時代にこそ重要。今の政治でも使われる原則『劇場政治』をあらわしているから」と言っていたのに興味を持った。

シアターイメージフォーラム自体は渋谷駅から少し六本木方面へ歩いていき、少し路地に入ったところにあった。受付自体は狭かったが、上映室はほどほどの広さ。今回のようなもののような少し尖ったものをよく上映しているところのようである。

国葬」の内容としては、ただただ、スターリン国葬の様子を流しているだけ。冒頭スターリンの棺が柱の間に安置されというところから始まり、一斉放送にてスターリンの死が伝えられる様子を様々な定点カメラが伝え、人々が柱の間に弔問に来る様子を流し、翌日レーニン廟に棺を移し、という一連の経過をアーカイブから編集したもの、ということで内容はそれに尽きる。なので、ある意味退屈な映画なのである。

しかし、何もスターリン時代のことを知らないで見たら、スターリンってなんて素晴らしい人なんだと思わずにいられないほどに、参列する人たちはみな悲しみ、そしてスピーチする人たちは賛辞の嵐を与えている。そして、効果的に使われる葬送行進曲。見ていて不思議な気持ちになった。そして最後、レーニン廟の扉が閉められ、それと同時に追悼の鐘、砲撃、汽笛が全土で鳴らされ、人々が黙祷をささげるところは感動的でもある、というか感動させられた。

しかし、静まったあとで画面が暗くなり、最後に、スターリン政権下で多数の人が虐殺され、餓死し、決して良い時代でなかったということが示される。さて、今までの感動とこのギャップは一体何なのか!

群衆は本当に心からスターリンの死を悼んでいたと思う(少なくとも映画に映っていた人は。そうでない人についてはその限りではない)。しかしそのように悼まれるだけの人間であったのであろうか、そして群衆はうまく騙されていたのか!?

 

非常にもやもやとさせられる映画であった。

 

今の日本は表面上はあまり不自由のない生活はできている。しかし同様の独裁主義ではないがそれに近いようなことは政治では行われているし、そして自分自身も今の世の中自体の流れに乗って騙されていやしないか!?

というのは考えすぎか。

 

医者として少し思ったのが、1950年代にCTがない時代で脳出血をどう診断したのだろうかということと、チェーンストークス呼吸という単語が病態を伝える放送の中で出てき、へえと思ったことを付け加えておく。

 

残りの二作についても、年明けに延長公演があるようなので見に行くことにする。日常の価値観を揺さぶられたい人は見に行くことを非常に勧めます。